*

事業の引き継ぎをお考えの方

私の事業を後継者にきちんと引き継がせたい

あなたが事業主であるなら、自分が亡くなっても、発展させた事業をきちんと後継者に引き継がせたいと思うはずです。

このことを私たちは「事業承継」と呼んでいます。

これを失敗してしまうと、従業員は路頭に迷いますし、取引先にも多大な迷惑をかけてしまいます。

そして、何より、あなたが多大な努力をして作り上げた事業が崩壊してしまうかもしれません。

こうならないように、事業主であるあなたが元気なうちに、「事業承継」を適切に進める必要があるのです。

事業承継を考えるとき、まずは、後継者を誰にするかを決定しなければなりません。

後継者を決定したら、どのようにして事業承継をしていくかを検討する必要があります。

事業承継の対策としては、①個人事業主の場合と②法人の場合で手法が変わります。

それぞれを分けて、ご説明しましょう。

個人事業主の事業承継

個人事業主の場合には、事業用の財産(事務所、工場等の営業施設、機械設備など)の承継が大きな問題になることが多いと思われます。

たとえば、個人事業主の子が4人の場合、長男を後継者と決めて、事業用の財産を承継させるにはどうしたら良いでしょうか。

一般的には、個人事業主が、「長男(後継者)に全ての財産を相続させる」という「遺言」を残すことが多いです。

しかし、それだけでは、他の子が「遺留分」(遺言によっても剥奪されない相続分)を主張してきた場合、長男が事業用の財産を相続することが困難となる事例もあります。

その場合の遺留分についての対策が必要となってきます。

遺留分対策の方法(その1「生命保険の活用」)

遺留分対策の方法としては、やはり「生命保険の活用」がおすすめです。

生命保険金(死亡保険金)は、原則として、受取人固有の財産とされています。そのため、生命保険金は、遺留分の請求の対象にはなりません。

たとえば、後継者(長男)を生命保険金の受取人とすれば、遺留分の対策となります。

また、このような生命保険金を後継者である長男が取得していれば、他の遺産との関係で、仮に後継者以外の子供が「遺留分」を主張してきたとしても、その争いは通常、価格弁償による解決が行われることが多いですから、生命保険金を価格弁償の資金として利用することができ、早期に問題を解決をすることができます。

さらに言うと、生命保険については、法定相続人1人につき、500万円の非課税枠があるので、遺留分対策と共に相続税対策にもなります。

遺留分対策の方法(その2「養子縁組の利用」)

事業主であるアナタ(遺言者)が養子縁組をして養子を迎えれば、相続人が増えますから、その分だけ遺留分は相対的に低下します。

先ほどの例でいうと、事業主であるアナタが、後継者(長男)の妻と養子縁組をすれば、他の子供たちの遺留分は相対的に低下するわけです。

ただ、この養子縁組は慎重に考えないといけません。長男とその妻との間が壊れてしまう(離婚してしまう)ことだって、あるからです。そのときに、アナタと妻(長男の妻)との離縁がスムーズにできるとは限りません。後継者である長男夫婦の仲が非常に良好であり、また、事業主であるアナタとの関係も良好なのであれば、この養子縁組を利用する価値はあるでしょう。

また、養子縁組をして相続人が増えると、相続税の基礎控除額が増えますから、節税対策にもなります。

遺留分対策の方法(その3「遺留分の事前放棄」)

その他の遺留分対策の方法としては、「遺留分の事前放棄」の方法もあります。

ただ、遺留分の事前放棄には、家庭裁判所の許可が必要ですが、①放棄が本人の自由な意思に基づくこと、②放棄の理由に合理性・必要性があること、が許可の要件とされています。そして、②については、「被相続人から生前贈与を受けている」とか「贈与を受ける約束ができている」等の理由が一般的に挙げられています。

しかし、このような手続きは、後継者以外の子供たちの協力が必要なのですが、自分にとって不利益となるものですから、協力してくれないことが一般的です。その意味で、事業承継の対策としては、あまり利用されていません。

法人の事業承継

法人の場合の事業承継はどのようにしていけば良いのでしょうか。

法人の事業承継とは、一言で言えば、「株式」の事業承継ということになります(株式会社の場合)。

そこで、まずは、株式の価値がどの程度かを調べることが必要になることがあります。

その上で、株式の価値があまり高くなければ、後継者にその株式を売却したり、贈与したりすることで事業承継をすることができます。

この場合、後継者以外の相続人から遺留分の請求を受けたとしても、その対処は容易だと思います。

では、株式の価値が高く、そのため後継者がそれを買い取ることが資金的に難しい、後継者以外の相続人から遺留分の請求を受ける恐れが高い、などのときはどうしたら良いのでしょうか。

種類株式の利用

考えられるのは、「議決権を制限する議決権制限株式」の利用です。

例えば、「後継者」である長男には「議決権のある普通株式」を、「その他の兄弟」には「議決権はないが配当優先株式」を、それぞれ与えることにより、長男に会社の支配権を円滑に承継させることが可能となります。

後継者に議決権のある普通株式を引き継がせる方法としては、生前贈与や遺言による方法などがありますが、どちらが良いかは、できるだけ税金がかからない方法を考えて決定します。

また、仮に事業主(父親)の生前中に会社の株を後継者に生前贈与する場合であっても、後継者がまだ未熟だと不安に感じる場合には、父親が拒否権付株式(黄金株とも呼ばれます)の1株だけは所有し、会社の重要な一定の決議をする場合には、父親が所有する種類株主総会の決議も別途必要とすることで、父親が後継者の経営に目配りをするという方法も考えられます。

その上で、個人事業の事業承継で述べたような「生命保険」を活用するなどの遺留分対策も併せて行い、後継者への事業の承継を円滑に進めることができます。

中小企業経営承継円滑化法の利用

一定の要件を満たす特例中小企業については、推定相続人全員の合意の後、経済産業大臣の確認及び家庭裁判所の許可を得ることで、旧代表者から後継者が贈与を受けた株式等に関し、遺留分算定の基礎財産から除外すること、旧代表者から後継者が贈与を受けた株式に関し、遺留分算定の基礎財産に算入する価額を一定の価額に固定することができます。このことは、中小企業経営承継円滑化法に定めがあります。

しかし、この制度は正直なところ使い勝手が悪く、全国的にもほとんど利用されていないのが現状です。